日本の中小企業には、「太陽型」の産業保健が必要だ。
こんにちは。
労働者のメンタルヘルスの問題を本質的に解決していく仕組みを創るために、日々色々と勉強して考えたり、人に会ってみたりと模索中のやすまさです。
今回は、「産業保健」についてここ1年間くらい考えてきたことをまとめたいと思います。
そもそも、産業保健とは何か?
「産業保健」という言葉、そもそも聞いたことはありますか?
僕は就職活動中、キャンサースキャンの福吉さんとお話しした時に初めて聴いた言葉でした。その時に「これだ!」と直感的に思ったので、それ以来産業保健に没頭しています。
一般的な学生には馴染みのない言葉ですよね。
産業医学振興財団は「産業保健」を以下のように定義しています。
産業保健とは 産業保健は、産業医学を基礎とし、働く人々の生き甲斐と労働の生産性の向上に寄与することを目的とした活動です。 職場においては産業医、保健師、衛生管理者、衛生推進者等のスタッフが活動し、職場外から労働衛生コンサルタント、作業環境測定士、健康保持増進(THP)のスタッフ等の専門家が支援します。
特筆すべきは、「労働の生産性の向上に寄与することを目的とした活動」というところかと思います。
いわゆる、健康診断やストレスチェック、産業医の面談など法律で事業主が労働者に対して実施することを義務付けられている活動は、「マイナスをゼロにする」活動というネガティブなイメージが強いかと思います。
しかしながら、本来的な産業保健の目的は、「ゼロをプラスにする」活動であるということです。
経済産業省の藤岡雅美さんを中心に、健康に関する活動を「コスト」ではなく「戦略的投資」と捉える「健康経営」の取り組みが近年注目されています。
(余談ですが、健康経営の起源はアメリカ。公的保険がないため従業員の健康への投資が経営に直結したため、経営戦略としての意義が強かったと言われています。日本での健康経営は、「個人の健康のための行動変容には、個人に向けてtoCでアプローチするだけでなく、企業からtoBでアプローチすることが有効なのではないか」という仮説のもとで始まっています。その時点で、目指しているものが「経営」か「医療費削減」かで異なるため、健康経営を経営戦略としてやることを前提に日本の制度は作られていないような気がしなくもないです。)
良い産業保健とは?産業保健の良し悪しを測るモノサシ
産業保健の良し悪しを測る基準は、大きく分けると3タイプあると捉えています。
- 法令遵守の基準
- 健康経営優良法人認定基準
- 独自の基準
【1】法令遵守の基準
1つが法令遵守の基準。労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法など、様々な労働者の健康に関する法令があります。
例えば、企業は定期健康診断を実施する義務があります。
また、50名以上の労働者を使用する事業場には、産業医の選任とストレスチェックの実施義務があります。
他にも、「安全配慮義務」と言って、企業は労働者の安全・健康に配慮する義務があり、企業がこの義務を果たしていなかったと判断されると損害賠償責任をおうこととなります。症状を「悪化させてはいけない」と言われています。
あまり良い例ではないですが、
自分のように持病がある従業員に対して、持病があることを把握せずに過重労働を課したことが原因で症状が悪化して過労死した場合、遺族に訴訟されるとおそらく企業は勝てません。
【2】健康経営優良法人の認定基準
2つ目が健康経営優良法人の認定基準。
これまで法令の義務と罰則に基づく負のインセンティブの基準しか制度設計されていなかったのに対して、健康経営優良法人の制度が誕生したことで正のインセンティブの基準が生まれました。最近かなり普及してきていて、デファクトスタンダードになりつつあります。(正確にはデジュールスタンダードと言うべきかもしれないですがそこまで明確な基準という訳でもないので何とも言い難いところです。)
この認定基準は、経済産業省のホームページから確認することができます。
中小企業の部門と大企業の部門で、基準の厳しさが異なります。
健康経営優良法人 2018(中小規模法人部門) 認定基準解説書
【3】独自の基準
最後が独自の基準。
例えば、リミーネクストと言う求人広告の媒体があります。
ここでは、「働きやすさ」を独自のアンケートをもとにスコアリングして、そのスコアに基づいて広告掲載料が決まる仕組みを作っています。
こちらのページに表示されている「リミースコア」のところに、独自の指標の項目とスコアが載っています。
他にも、人材開発系のサービスを提供している会社が「定着支援」「離職率低下」などを切り口に独自の指標を作っています。本当に、企業によって様々です。
HRと産業保健に境界は本質的には存在しないと思うので、今後ますます「HR領域→産業保健領域」、「産業保健領域→HR領域」の参入は増えていくんだろうなと思います。
産業保健は「形だけ」で実態が伴わないケースが非常に多い
本来的な目的は、労働者の健康・労働生産性の向上。
ですが、定期健康診断の結果を活かせていなかったり、ストレスチェックの結果を活かせていなかったり、嘱託産業医が職場巡視に来ない所謂「名義貸し」状態が横行していたりと、形だけになっているケースが多いです。
これではもちろん、本来的な目的は達成できません。
その背景には様々な問題が複雑に絡み合っているのですが、特に2つの構造的な問題があると考えています。
【1】産業保健は、事例性が高い
臨床心理学や産業保健、EAPに関しては「事例性(個別性)が高い」のが難しい。
以前、EAPに勤めていた先輩がこのようにおっしゃっていました。
「健康とは何か?」
「良い職場とは何か?」
それは人によって全く異なります。
業種によっても、企業ごとでも、画一的に「これ!」と言える絶対的な正しい答えは断定できません。
そのため、健康診断やストレスチェックで、「チェック」をして「問題点を特定する」ための制度は統一的なものを適用できても、その問題を解決するためのソリューションは10人いれば10通り異なるということです。
例えば、僕は週80時間くらいは何かしらの生産活動をしていることが学生時代から習慣化しているため、「法定労働時間40時間は、少なすぎてやりがいが感じられない」というジレンマを抱えていたりもします。事例性の難しさを体現している気がします。
(最近は、仕事をしていない時間で、料理屋ジョギングなど、今までチャレンジできていなかった新しいことをやってみるのにハマっています。笑)
【2】最低限のことをやるだけでも、中小企業は精一杯
事例性が高い、と言うことは、企業ごとで現場の課題に向き合い、それぞれの解釈に基づき仮説を立ててKPIを設定し、施策を実行していく必要があります。
このような、ボトムアップに事例性と向き合っていくプロセスこそが健康経営や働き方改革の真髄だと僕は思っています。自分たち自身で、健康についてや、より良い職場環境を作るためにはどうしたらいいかを考えて、試していくという一連の流れを民主的に行うプロセスを通して、健康で生産性の高い職場環境は作られていくと思います。
ですが、なかなかそうもいかない現場が多いようです。
中小企業は、産業保健の業務を行う専門スタッフがいる職場はほとんどありません。
人事、総務、経理など他の業務と兼任しているケースがほとんどです。
そのため、時間もお金も専門知識も余裕がなく、最低限のことをこなすだけでも精一杯なのが実情なのです。
そんな現場に対して、「やりっぱなしじゃなくてもっと戦略的に活用しましょう」とか「事例性と向き合いましょう」と言っても、なかなかアクションには落ちません。
確かにそれは理想。だけど優先順位は高くないから後回し。
そして、結局やらない。
つまり、現場が事例性と向き合うことを前提にした制度であるにも関わらず、現場は事例性と向き合う余裕がないため、制度が理想ありきに終わってしまい実効性が低くなりがちなのが現在の産業保健活動だということです。
産業保健活動には、様々な専門家を含めた登場人物がいます。本来的な目的を達成するためには、全員がその共通目的に向けて力を発揮していく必要があります。
全員が共通目的に向けてうまく共創していける仕組みを創りたいなと思ってはいます。
こちらまだ考えている途中なので、もう少しブラッシュアップしていけるようにします。
これまでの産業保健活動は、「北風型」だった。
北風と太陽の話の教訓として、Wikipediaに以下のように書いてありました。
手っ取り早く乱暴に物事を片付けてしまおうとするよりも、ゆっくり着実に行う方が、最終的に大きな効果を得ることができる。また、冷たく厳しい態度で人を動かそうとしても、かえって人は頑なになるが、暖かく優しい言葉を掛けたり、態度を示すことによって初めて人は自分から行動してくれるという組織行動学的な視点もうかがえる。
X理論とY理論とも言えるかもしれません。
今までの産業保健は、「北風型」だったと思います。
「罰則があるから、仕方なくやる」
「休職者が出てしまったから、やる」
「過労死が出てしまったから、やる」
「労基署に指摘されたから、やる」
このように、やらなければならないからやるものでした。
これまではそれでも通用した側面があったのですが、製造業を前提とした画一的なマネジメントから、企業体の多様化に伴う事例性のマネジメントが必要になってきている大きな流れがあるかと思います。
そのため、北風型にトップダウンで「こうしなさい!」と指摘し続けることは、実際のところ現場で意義ある産業保健活動を行うことに繋がりにくくなってきているのではないでしょうか。
これからは、「太陽型」の産業保健活動の時代。ゆっくり、着実に、現場が事例性と向き合う太陽型の産業保健活動が必要になると考えられます。
「産業保健=ネガティブ」を変えたい
今月も、過労死のニュースが相次いでありましたよね。
そう言った報道を見ていると、「産業保健=ネガティブ」というイメージを持っている人がやっぱり多いかと思います。
産業医の面談を受けるのは恥ずかしいことだよね、とか。
健康診断受けるの面倒、とか。
残業代減ってつらみ、とか。
そうじゃなくて、、、
もっとポジティブなもの、楽しいもの、ワクワクするものであるべきだと思っています。
自分たちで、自分たちの働き方を見直して、もっと楽しい職場、生産性の高い職場に変えていくにはどうしたら良いかを考えて実行していくのって、普通に楽しいはずだし。
どうしたらいいんでしょうか。
ちなみに、あえて「日本」の「中小企業」にはこだわっていきたいと考えています。
医療費削減や労働生産性が深刻な課題ですし、マーケットも大きいですし、やりがいを感じる領域からです。
ずっと考えて行動し続けます。
「やすまさんぽ」という名前でブログを立ち上げたのに産業保健についてがっつり自分の主張をまとめた記事を書けていなかったので、第一弾として書いてみました。
自分の頭の中にあるものをこうした形で吐き出すと、勉強不足を痛感します。
分かりにくいところ、ロジックが飛んでいるところがたくさんあると思うので、今後少しずつその空白を埋める記事も書いていきます。
解釈が誤っているところや甘いところも多々あると思いますので、何か気になった点などがあればフィードバックいただけるととてもありがたいです。