「自分って何者なんだろう?」大学生が直面するモラトリアムとの向き合い方

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若者なら誰しもが考える「自分って何者なんだろう?」という問い。

今回は、この問いとの向き合い方について書いていこうと思います。

少しでも、モラトリアムと向き合うヒントを得ることができれば幸いです。

「自分って何者なんだろう?」

大学生であれば、そんなことを悶々と考えたことが一度はあるはずです。

僕自身も、大学1年生の前半は勢力的に様々な活動に取り組んでいたのですが、夏休み終わりにふと自分が何をやりたいのかが分からなくなってしまい塞ぎ込んでいた時期がありました。

いわゆる「モラトリアム」と呼ばれている状態だったと思います。

「モラトリアム」とは?

モラトリアムとは、元々は「支払猶予期間」を指す言葉でしたが、それが転じて心理学の用語として使われるようになりました。

 

心理学用語のモラトリアムとは、「青年がアイデンティティ形成をするまでに社会が猶予する期間」を意味します。心理学者エリクソンによって提唱されました。

まだ何者でもない若者が、生きがいや働きがいや自分の価値観を見つけるために、様々な役割を試して自己探求していく猶予期間のことです。若者がアイデンティティを確立する上で通る心理状態だと言われています。

 

今回はエリクソンによって提唱された「モラトリアム」を理解し、モラトリアムとの向き合い方を考えていきます。

 

エリクソンの人生8段階理論

「モラトリアム」は単独の概念として作られたものではなく、「ライフサイクル」という人間が生まれてから死ぬまでの発達課題を8段階にまとめたモデルの中の一部として提唱されたものです。

エリクソンは、各段階においてどのような発達課題を抱え、その課題を乗り越えることができなかった場合にどのような心理的危機を生じるかをまとめ上げています。

今回は各段階の説明は割愛し、青年期以降の話を中心にします。

 

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ライフサイクルの5段階目にあたる青年期と呼ばれる12歳から22歳頃の時期に、親によって作られた自我から自ら作る自我へと変わり、「自我同一性(アイデンティティ)の確立」が発達課題となると考えられています。

その際に、「モラトリアム」(=アイデンティティを確立するための猶予期間)が生じるのです。

 

「自我同一性の確立」と「自己実現

親によって作られた自我から、自ら作る自我のフェーズに入ってからは、人生前半と後半で発達上2つの大きな課題があると言われています。

前半が「自我同一性(アイデンティティー)の確立」、後半が「自己実現」です。

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自分がどうありたいかに答えを出すのが自我同一性の確立。

出した答えを現実社会で形にしていくのが自己実現

というように捉えると分かりやすいかと思います。

 

「自我同一性の確立」とは?

「自我同一性(アイデンティティー)の確立」とは、「これぞ自分だ」という自分を確立すること。

つまり、「自分って何者なんだろう?」という問いに、自分なりの答えが見つかっている感覚のことです。

大学生が陥る「自分が何者なのか分からない」「自分のやりたいことが分からない」「将来の夢がない」などの状態は、この「自我同一性の確立」という人生前半の課題に直面している状態と言えます。

 

自我同一性は、「自己斉一性・連続性」「対自的同一性」「対他的同一性」「心理社会的同一性」という4つの要素から構成されていると言われています。

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つまり、自分自身の中でも、他人との関わりの中でも、現実社会との関わりの中でも、「これぞ自分だ」という自分がある感覚に分けられています。

 

自我同一性の発達段階(同一性地位)

自我同一性を達成していく過程は、発達臨床心理学者のマーシャによって「同一性拡散」「モラトリアム」「早期完了」「同一性達成」という4つの同一性地位(Identity Status)に分けられると提唱されました。

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(自我の)危機経験のあり・なしとは、自我同一性について迷い、深く混乱している状態を経験しているか否かを意味します。

特定の生き方に傾倒とは、どう生きるのかを決断し、その生き方に傾倒しているか否かを意味します。

 

「同一性拡散」

同一性拡散は、傾倒する生き方を見失ってしまっている状態です。

自我の危機を経験していない場合は、今まで自分が何者かであった経験がないので、何者かである自分が分からない状態です。

自我の危機を経験した後の場合は、全ての可能性を可能なままにしておかなければならないと考えて何にも傾倒していない状態になります。

 

「モラトリアム」

モラトリアムは、特定の生き方を見つけようとしていて、まさに自我の危機にある状態です。

積極的に生き方を探求しているが、いくつかの選択肢について迷っているところで、特定の生き方に傾倒はできていないか、まだはっきりとは傾倒していません。

 

「早期完了」

早期完了とは、特定の生き方に傾倒しているものの自我の危機を経験しておらず、どう生きるのかの探求を行っていない状態です。

どんな体験も、幼児期以来の信念を増強するだけになっていて、融通がきかないという特徴があります。

 

「同一性達成」

同一性達成は、生き方の積極的な探索と、特定の生き方への傾倒をどちらも行っている状態です。

幼児期からの生き方について確信がなくなり、いくつかの可能性について本気で考えて自我の危機を乗り越えた結果、自分自身の解決に達しそれに基づいて行動することができるようになります。

 

(参考:http://www.u-gakugei.ac.jp/~nmatsuo/hato-kadai.htm

 

同一性地位に関する研究成果

・1つの同一性地位のままでいる人が5割以上いる

・同一性達成の数は年齢とともに一貫して増加する

・モラトリアムの数には一貫した増減はない

・早期完了の数は一貫して減少する

・同一性拡散の数は減少するか、同程度である

・同一の地位に安定している青年の数は、同一性達成で一番多く、モラトリアムで最も少ない

 

(『心理学』より一部抜粋)

 

これによると、半数以上の人が1つの同一性地位に留まっているようです。

モラトリアムに関しては、年齢とともに減るわけでもないようですが、モラトリアムでずっと安定している青年は少ないようです。

 

自己実現」とは?

人生後半の課題である「自己実現」は聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

アブラハム・マズローという心理学者が提唱した欲求五段階モデルの最上位にあたる欲求として知られています。

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モラトリアムで様々な自分を試し、無事「これぞ私だ」というアイデンティティを確立することができたら、次のステップはそれを現実社会で形にしていくことです。

ありたい自分、創りたい社会、やりたいこと、1つ1つ行動に移して自己実現に近づけていきましょう。

ちなみにマズローは笑顔が素敵でいい人そうなので、画像検索してみてください。笑

欲求五段階説が非常に有名ですが、当時心理学の世界で精神分析と行動主義が主流だったところに、人間性心理学という健常者に焦点を当てた心理学を提唱した心理学史に残る学者として知られています。

 

モラトリアムから同一性達成に至るヒント

まとめると、「モラトリアム」とはアイデンティティを確立するための猶予期間のことです。

様々な生き方を検討し、実際に試し、自我の危機を乗り越えて自分らしい生き方を見つけ、アイデンティティを確立していくことになります。

最後に、そんなモラトリアムと向き合う3つのヒントをまとめます。

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【ヒント①】悩んでいるのは自分だけではない

まずは悩んでいるのが自分だけではないということを知り、落ち着いて悩みましょう。

青年期に「モラトリアム」になり悩むことは当然のことです。心の成長の過程なので、安心してください。

そして、悩んでいるのは自分だけではありません。

周りの人だって悩んでいるはずです。

 

【ヒント②】迷いのない純粋なアイデンティティなど存在しない

「モラトリアムはアイデンティティを確立するための猶予期間だ」と言っておきながら、こんなことを言うのは本末転倒ですが、絶対的なアイデンティティが確立するということなどあり得ないとエリクソンも考えていたようです。

エリクソンは、「アイデンティティを達成し青年のモラトリアムが終わる」などという安易なことを語っていたわけではない。むしろ、アイデンティティは何度も作りかえられる。あるいは、迷いのない純粋なアイデンティティなど、エリクソンは想定していなかった。迷い続け、葛藤し続ける。にもかかわらず、その内なる葛藤をかろうじてつなぎとめる「しなやかな強靭さ」。それがアイデンティティなのである。

(『さまよえる青少年の心』より一部抜粋)

 

迷い続け、葛藤し続ける、太くしなやかな自我を育てていけるといいですね。

  

【ヒント③】主体的に一次情報を獲得する

最後に、自分で選び、自分で経験したことを大切にしましょう。

受動的にやらされていることや、人から見聞きしたことでアイデンティティを確立するのは難しいです。

 

大学生になると、高校生までよりも日々の意思決定を自分自身で行う機会が増えてきます。

・履修をどうするか?

・バイトやインターンをどうするか?

・サークルをどうするか?

・どんな服を着るか?

・何時に起きて何時に寝るか?

・ゼミをどうするか?

・長期休暇をどう過ごすか?

・就職先をどうするか?

などなど。

 

その時に、「何をするのか」「なぜするのか」を自己決定すること。

そして、その結果感じたことを大切にすること。

どんなにちっぽけな経験だったとしても、主体的に得た一次情報からはたくさんの学びが得られるはずです。

 

自信を持って迷うこと

ふと自分が何者か分からなくなった時、壁にぶつかっている時、もうお先真っ暗で苦しいと思う時もあるかもしれません。

でも、見方を変えればそれは自分の心の成長のための扉になります。

その先には新しい人生を生きる新たな自分がいるはずです。

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乗り越えて、振り返ってみると、意外とそうでも無かったなと感じることも多いもの。

それに、いろんな問題と向き合ってたくさん悩んだ人ほど、人としての深みがあって魅力的だと思います。

自信を持って迷いましょう。

 

僕は大学時代に多次元自我同一性尺度(MEIS)という自我の確立度合いを測る指標を使って、大学生の経験と自我の確立の関係性を研究していました。この尺度を使った研究をしている谷冬彦さんの『さまよえる青少年の心』はモラトリアムへの疑問を中心に、自我について広く学べるのでおすすめです。